運動処方箋を最大限に活かす:医療連携トレーナーの実践スキル

2025年12月08日 | メディカルフィットネス

医療連携トレーナーとして活動する上で、
「運動処方箋」を正しく理解し、
活用することは極めて重要です。

 運動処方箋は医師が患者さんの
状態を考慮して作成した
いわば「運動の設計図」です。

この処方箋を最大限に活かして、
クライアントに安全で効果的な
運動指導を提供できます。 

また、医師との信頼関係を構築することで、
多くの紹介を受けることにもつながります。

今回は、運動処方箋を活用した
実践的なトレーナースキルをご紹介します。

運動処方箋を読み解く基本スキル

医療機関からクライアントが紹介される際には、
運動処方箋が添付されているケースが増えています。 

しかし、処方箋を「読める」だけでは不十分です。 

その内容を正確に理解し、実践的なプログラムに落とし込む力が求められます。

運動処方箋には通常、FITT原則
基づいた情報が記載されています。

Frequency(頻度)、Intensity(強度)、
Time(時間)、Type(種類)
です。

例えば

といった処方です。 

この処方箋から読み取るべきは、
単なる数値だけではありません。

「なぜこの頻度なのか」「なぜこの強度なのか」という
背景にある医学的根拠を理解することが重要です。

例えば、心拍数の上限が設定されている場合、
心疾患リスクの可能性を考慮する必要があります。

糖尿病で医師から運動処方箋を持参した山田さん(仮名・55歳女性)。

処方箋には

と記載されていました。

この処方箋を受け取った私たちは、まず主治医に確認。

糖尿病の血糖コントロール改善が主な目的と理解しました。

その上で、山田さんの体力レベルや好みを考慮し、
エアロバイクとウォーキングのプログラムを提案。

処方箋を「読み解く」ことによって、
適切なプログラム設計が可能になります。

やはり医師とトレーナーの良好な関係が重要と考えられます。

処方箋に基づくプログラム設計の実践

運動処方箋を実際のトレーニングに落とし込む際、
いくつかのポイントがあります。

処方箋の内容について、気になることがあれば医師と相談すること。

処方箋で週3回と書かれてた場合、それは最低3回なのか、3回を超えてやるのは良くないのか、コミュニケーションを取ることが大事です。

おおむね、週3回と記載がある場合、3回はやってほしいけど、本人の調子がよければ週4回に増やすのもOKな場合が多いですが、その点は医師に要確認です。

但し強度や時間の上限が指定の場合は、
それを超えないよう注意が必要です。 

特に心疾患や高血圧のクライアントの場合、
上限を守ることが安全管理の基本となります。

次に、処方箋の内容を「段階的に達成」する計画を立てること。 

いきなり処方箋通りの運動を行うのではなく、
クライアントの現在の体力レベルから
無理なく到達できるステップを設計します。

高血圧で運動処方箋を持参した佐藤さん(仮名・60歳男性)。

「週4回、30分のウォーキング」記載されていました。

しかし佐藤さんは、ここ数年
ほとんど運動をしていませんでした。

そこで私たちは、まず週2回、
15分のウォーキングから
スタートする計画を立てました。 

2週間ごとに時間を5分ずつ延ばし、
4週間後には週3回に増やす。 

そして8週間後に、
処方箋通り週4回にして、
30分を達成する計画です。

この段階的アプローチにより、
佐藤さんは無理なく目標を達成でき、
現在も継続して運動を続けています。

また、運動の「種類」も臨機応変さが重要です。 

「有酸素運動」と記載されていれば、
ウォーキング、ジョギング、自転車、
水泳など、様々な選択肢があります。 

クライアントの好みや環境に合わせて、
最適な種目を選ぶことが継続率を高めます。

医師とのコミュニケーションを深める報告術

運動処方箋を活用する上で、医師との
良好なコミュニケーションは欠かせません。 

特に、定期的な報告は信頼関係構築の要となります。

報告する際のポイントは、「医師が知りたい情報」を的確に伝えることです。

医師は、処方箋通りの運動が実施か、
クライアントの状態に変化はないか、
問題は起きていないかを知りたいのです。

私たちが実践している報告フォーマットは、
以下のような項目で構成されています。 

実施状況(頻度、時間、強度)、バイタルサイン(血圧、心拍数)、
クライアントの主観的感想、トレーナーの所見、今後の計画。

これらを簡潔にまとめ、
月に1回または3ヶ月に1回、
医師に報告します。 

可能であれば、グラフや表を使って
視覚的に分かりやすく示すと効果的です。

心疾患の既往がある鈴木さん(仮名・65歳男性)。

医師から「無理のない範囲で」と
運動処方箋をいただいていました。

私たちは毎回のセッションで血圧と心拍数を測定。

運動中の自覚症状も記録しました。

3ヶ月後、これらのデータをまとめて医師に報告したところ、

と評価をいただきました。 

医師との信頼関係を深め、その後の紹介につながったのです。

また、何か異常や問題があった場合は、
すぐに医師に連絡することも重要です。 

運動中に胸の痛みや強い息切れがあった、
血圧が異常に高かったなど、
安全に関わる情報は迅速に共有します。

この対応により、
医師は

と感じ、
積極的に患者さんを紹介してくれるようになります。

処方箋の範囲を超える際の判断基準

クライアントの状態が向上し、
運動処方箋の内容を超える
運動が可能になることもあります。 

この時、どのように判断し、
対応すればよいのでしょうか。

基本原則は、

ことです。 

特に強度の上限や
禁忌事項が明記されている場合、
必ず守る必要があります。

一方、頻度や時間について、
クライアントが「もっとやりたい」と希望する場合、
医師に相談の上、処方箋の見直しを提案できます。

トレーナーからの提案を医師に伝えることで、
処方内容のアップデートが可能になるのです。

糖尿病で運動を始めた田中さん(仮名・50歳女性)。

当初の処方箋では週3回の運動でした。 

しかし3ヶ月後、田中さんから
「もっと運動したい」と希望が。

そこで私たちは、現在の運動実施状況と
田中さんの希望を医師に報告し、
処方箋の見直しを提案しました。 

医師は田中さんの血糖値の改善を確認した上で、
「週4〜5回に増やしても良い」と
新しい処方箋を作成してくれました。

このプロセスを経ることで、
クライアントは安全に運動量を増やせます。

医師・トレーナー・クライアントの三者が
連携して目標を達成できたのです。

逆に、処方箋通りの運動が難しい場合も、
医師に相談することが重要です。 

クライアントの体力不足や生活環境の制約などで、
処方内容の実施が困難な場合、無理に続けるのではなく、
現実的な内容に修正してもらいます。

処方箋がない場合の対応方法

医療機関から紹介されたものの、
明確な運動処方箋がない場合もあります。 

「運動してください」という口頭指示だけで
来られるクライアントも少なくありません。

このような場合、トレーナーとして
どのように対応すべきでしょうか。

まず、医師に連絡を取ります。

そして、具体的な運動処方の確認が望ましいです。 

クライアントの基礎疾患、現在の治療内容、
運動の目的、禁忌事項などを確認します。

その上で、一般的なガイドラインに基づいた
保守的なプログラムから開始するのです。

例えば、軽度から中等度の強度、短時間から始め、
徐々に増やしていくアプローチです。

そして、数週間のトライアル期間後、
クライアントの反応を見ながら適切な
プログラムを確定していきます。 

この間のデータや所見を医師に報告し、
正式な運動処方箋作成の依頼も有効です。

実際、このプロセスを経ることにより、
医師とトレーナーの連携が深まります。

結果、詳細な処方箋作成のケースも多々あります。

運動処方箋を書く先生は、現実的には少ないです。
しかしながら、Doctor’s Fitnessではオンラインで運動処方箋を作成することも可能です。

その方の病状を把握する上で、本人のオンライン上での診察には限界がありますので、主治医に診療情報提供を依頼することで、医師と医師とでコミュニケーションをとるようにしています。

主治医の先生にとっても、患者さんご本人にとっても非常に安心のシステムとなっています。

運動処方箋を活用した差別化戦略

医療連携トレーナーとして、
運動処方箋の適切な活用は、
大きな差別化要因となります。 

一般的なパーソナルトレーナーとは違った、
医療的な視点を持つプロフェッショナルとして
認識されやすくなるからです。

クライアントや医師に対して
「運動処方箋に基づく科学的で安全な指導」
提供できることを明確に伝えましょう。

ウェブサイトやパンフレットに、
運動処方箋対応可能であることを
記載することも効果的です。

また、医療機関への営業活動の際も、
運動処方箋の活用実績を示すことで、
信頼性は大きく高まります。 

というメッセージは、医療機関にとっても大きな安心材料となります。

運動処方箋への対応を明確にしてから、
医療機関からの紹介が増えたという施設は多くあります。 

運動処方箋は、医療連携トレーナーの
専門性を示す強力なツールです。

まとめ:運動処方箋はトレーナーと医師をつなぐ架け橋

運動処方箋は「指示書」ではありません。 

処方箋を正確に読み解き、
適切なプログラムに落とす。

定期的に医師に報告し、必要に応じて処方内容の見直しを提案。 

この一連のプロセスを通じて、
医療連携トレーナーとしての
価値を発揮できます。

運動処方箋を最大限に活かす力を身につけ、
クライアントにより良いサービスを提供する。同時に医師からの信頼を獲得によって、
ビジネスでの成長が可能となるのです。

Doctor’s Fitnessでは、医療機関と連携した運動習慣定着プログラムを提供しています。
患者さんの継続的な健康管理をお考えの医療スタッフの皆様、お気軽にご相談ください。

【監修】宮脇 大(みやわき ひろし)
Doctor’s Fitness代表医師/循環器内科医
元大阪大学医学部附属病院/循環器内科(重症心不全・心臓移植)スタッフ
大阪府スマートヘルスプロジェクトアドバイザー

本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人の状態に対する医学的アドバイスではありません。連携モデルの導入にあたっては、各医療機関の方針や地域の状況に合わせて調整してください。

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