目標設定と記録で継続を促す実践スキル
はじめに
運動処方箋に基づくプログラムを提供する際、患者さん自身が『運動の効果を実感』できているかは、継続支援の成否を大きく左右します。
トレーナーが適切な指導を行っていても、患者さん自身が進捗を把握できなければ、運動は「やらされている行動」になりやすくなるからです。
そこで重要となるのが、セルフモニタリングという視点です。
セルフモニタリングとは、患者さん自身が運動内容や体調の変化を記録し、自己管理する行動を指します。
本記事では、医療連携トレーナーが運動処方箋を活用する現場において、セルフモニタリングと目標設定をどのように組み合わせて継続支援を強化するかを整理します。
セルフモニタリングが継続に与える心理的効果
セルフモニタリングが運動継続に有効となる背景には、いくつかの心理的メカニズムが存在します。
まず、記録するという行為そのものが、行動への意識を高める働きを持っています。
「今日は運動したか、しなかったか」を書き留めるだけ。
これだけでも運動への注意が向き、実行率は向上します。
次に、記録された情報は客観的なフィードバックとなります。
「頑張っている気がする」という感覚ではなく、「1か月で12回運動した」という事実が、努力を可視化します。
さらに、進捗を確認できると自己効力感が高まります。
数値や変化を見ることで「自分にもできる」実感が育っていきます。
記録は問題の早期発見にも役立ちます。
運動頻度の低下や疲労感の変化に気づけば、離脱前の対策が可能になります。
医療連携トレーナーに求められるのは、記録だけを勧めることではありません。
患者さんが無理なく続けられる形を一緒に設計し、記録された情報を支援に活かせるかが重要です。
運動処方箋に基づく記録項目の考え方
セルフモニタリングで記録する項目は、運動処方箋の内容と患者さんの目標に応じて設定します。
基本となるのは、運動の実施状況です。
いつ、どのような運動を、どれくらいの時間や強度で行ったかを記録します。
処方箋に「週3回、30分の有酸素運動」とある場合、実施日や運動内容、運動時間などを簡潔に残します。
次に、バイタルサインや身体測定値が挙げられます。
血圧、体重、腹囲、安静時心拍数など、疾患や目的に関連する指標を定期的に記録します。
これらは運動の効果を客観的に示す重要な情報となります。
加えて、主観的な感覚も大切な記録項目です。
運動時の疲労感や運動後の気分などを、簡単な段階評価で残すと変化がわかりやすくなります。
運動を実施できなかった場合、その理由も記録してもらいます。
忙しさや体調不良などの背景が見えることで、継続の障壁となるパターンが浮かび上がってくるからです。
ただし、記録項目が多すぎると負担になります。
初期段階では運動実施の有無だけでも十分です。
慣れてきた段階で、必要に応じて項目を追加しましょう。
SMART原則に基づく目標設定の実践
セルフモニタリングを継続支援に活かすには、明確で現実的な目標設定が欠かせません。
有効な枠組みとして知られているのがSMART原則です。
- 目標は具体的【Specific】
- 測定が可能【measurable】
- 達成が可能【Achievable】
- 本人にとって意味がある【Relevant】
- 期限が設定されている【Time-bound】
これらの条件を満たせば、目標は行動につながりやすくなります。
運動習慣のない患者さんに、最初から高い目標を設定する必要はありません。
週1回10分から始めるなど、達成しやすい設定が重要です。
医療連携トレーナーは、運動処方箋の意図を踏まえながら、患者さんと対話を重ねて目標を言語化します。
目標は固定せず、進捗に応じて見直し、調整しましょう。
セルフモニタリングツールの選択と活用
セルフモニタリングの継続は、ツール選びも重要な要素となります。
紙の記録用紙は、最もシンプルで導入しやすい方法です。
書く行為そのものが記憶に残りやすく、習慣化を後押しする場合もあります。
スマートフォンアプリは、自動記録やグラフ表示により負担を軽減できます。
一方で、操作に不慣れな方には負担となることもあります。
ウェアラブルデバイスは、心拍数や活動量を自動的に記録できる点が利点です。
ただし、コストや過度な依存には注意が必要です。
最も重要なのは、患者さん自身が続けやすい方法を選ぶこと。
「どの方法なら続けられそうか」を一緒に考えることで、主体性が高まり、継続率も向上します。
記録内容はセッションごとに振り返り、具体的な変化を言葉にして伝えます。
データを医療機関と共有することで、医療スタッフ・トレーナー・患者さんの三者が、同じ情報を基にした支援体制が整います。
目標達成と次の目標設定
目標を達成した際には、その努力への承認が大変重要です。
達成を言葉にして共有すると、患者さんの自己効力感は大きく高まります。
その上で記録を振り返り、どのような変化が起きたかを確認します。
次の目標は、達成した内容よりも少しだけ難易度を上げます。
無理のない範囲で段階的な設定が、継続的な成長につながります。
一方で、維持期に入った患者さんに対しては、「現状を維持する」目標設定も十分に有効です。
重要なのは、患者さんの状態に合わせた個別の調整です。
実践事例:変形性膝関節症患者Hさんのケース
Hさんは65歳の女性です。
変形性膝関節症により運動への不安を抱えていました。
まず「痛みのない範囲で行う」前提を共有し、不安の軽減から支援を開始。
SMART原則に基づき、週2回15分の座位運動という目標を設定しました。
セルフモニタリングは紙の記録用紙を使用し、記録項目を4つに絞りました。
2週間後の確認では、4回の運動が実施されていました。
記録を一緒に見ながら、痛みが増していない点を具体的にフィードバックしました。
1か月後には週2回が安定。
次の目標として週3回へ段階的に移行しました。
3か月後、Hさんは運動を習慣として受け入れ、記録が励みになっていました。
この事例は、不安への配慮と記録の活用が、セルフモニタリングを強力な継続支援ツールに変えることを示しています。
まとめ
セルフモニタリングと目標設定を組み合わせることで、運動処方箋は「指示」から「自己管理の支援」へと変化します。
SMART原則に基づく目標設定と、患者さんに合った記録方法の選択、定期的な振り返りによって、継続の好循環が生まれます。
医療連携トレーナーに求められるのは、運動を教えることだけではありません。
患者さんが自ら管理できる力を育てることです。
次回のセッションでは、目標と記録方法を患者さんと一緒に決めるところから始めてみてください。
それが運動習慣定着への確かな一歩となります。


