医療連携で実現する継続支援の考え方
はじめに
運動処方箋を発行しても、患者さんが実際に運動を継続できるかどうかは、別の課題として残ります。
診察室で十分に説明したつもりでも、次の受診時には運動がほとんど実践されていない。
そのような経験を持つ医療スタッフは少なくありません。
運動の重要性は理解されている。
それでも行動が続かない。
このギャップは、患者さんの意志の弱さによって生じているものではありません。
多くの場合、運動を継続するための「支援の設計」が十分に機能していないことに起因します。
本記事では、運動処方箋を発行する医療スタッフが、患者さんのモチベーションをどのように捉え、医療連携の中で継続支援をどのように組み立てるべきか整理します。
運動継続が難しくなる背景をどう理解するか
運動が継続しない背景。
それは、心理的要因と生理的要因が複雑に絡み合っています。
運動開始当初は意欲が高くても、多くの場合、2〜3週間でその熱量は低下します。
これは新しい行動がまだ習慣として定着していない過渡期に起こる自然な反応です。
医学的には、報酬系神経伝達物質の分泌パターンが関与していると考えられています。
運動による即時的な達成感が薄れると、行動の継続は難しくなります。
生活習慣病を有する患者さんでは、この傾向がさらに顕著です。
なぜなら、血糖値や血圧の改善は数値として確認できても、患者さん自身が身体的変化を実感しにくい場合がほとんどだからです。
努力と成果の間に生じるこの時間差が、モチベーション低下の大きな要因となります。
加えて、仕事や家庭環境による時間制約、天候や体調の影響、運動時の不快感なども継続を妨げる要素として存在します。
医療者がまず理解すべきなのは、運動が続かないことは「想定外」ではなく「起こりやすい現象」であるという点です。
動機づけをどう捉えるか
モチベーションを考える際に有用なのが、外発的動機づけと内発的動機づけという視点です。
外発的動機づけは、「医師に言われたから」「家族に勧められたから」といった外部要因によるものです。
一方、内発的動機づけは、「健康でありたい」「生活をより良くしたい」といった、患者さん自身の価値観に基づく動機を指します。
長期的な運動継続には、外発的動機づけだけでは不十分です。
内発的動機づけが形成され、初めて行動は生活の中に根付きます。
医療スタッフに求められるのは、この移行を“促す環境”を整えることです。
医療面接で意識したい視点
医療面接の際、一方的に運動の必要性を説明するだけでは、内発的な動機づけは育ちません。
重要なのは、患者さん自身の言葉で「なぜ運動が必要か」を語ってもらうことです。
「なぜ運動した方が良いと感じていますか」
「今後、どのような生活を送りたいと考えていますか」
こうした問いを通じ、患者さんの中にある価値観や希望を言語化できます。
また、運動のメリットは、医学的数値だけでは語らないことも重要です。
血糖値や血圧の改善に加えて、生活場面に結びついた目標として提示することで、意味づけは深まるからです。
- 「孫と一緒に外出したい」
- 「旅行を楽しめる体力を保ちたい」
- 「仕事を無理なく続けたい」
こうした具体的な生活像と運動を結びつけることが、内発的動機づけを育てる土台となります。
段階的目標設定という医療的支援
モチベーション維持には、達成可能な目標設定が欠かせません。
最終目標だけを提示すると、患者さんは達成までの距離を遠く感じてしまいます。
運動処方箋を活用する際には、段階的な小目標を設定する。
そうすることで、達成感を積み重ねる構造の設定が重要です。
例えば、最終的に週3回30分の有酸素運動を目指す場合。
初期段階では週1回を10分程度からの開始が現実的です。
小さな成功体験を確認しながら、徐々に頻度や時間を調整していく。
このプロセス自体が、継続支援の一部となります。
診察時に「続けられていますね」「前回より楽になってきましたね」といった具体的フィードバックによって、患者さんの自己効力感は高まっていくからです。
医療連携による継続支援の意義
医療機関単独で、頻回なフォローアップを行うことには限界があります。
ここで重要な役割を果たすのが、指定運動療法施設などとの医療連携です。
運動施設では、運動処方箋に基づいたプログラムが実践され、運動実施状況や体調変化が継続的に把握されます。
これらの情報が医療機関と共有されることで、医療スタッフは患者さんの状態を立体的に捉えることが可能になります。
来館頻度の低下や意欲の変化といった兆候を早期に把握できれば、診察時の関わり方や処方内容の調整にもつながります。
医療連携は、運動を「処方して終わり」にしないためにも大変重要な仕組みです。
実践事例:糖尿病患者Eさんのケース
Eさん(52歳・男性)は、HbA1c 8.5%の二型糖尿病を有しており、運動療法の導入が必要な状態でした。
初回面談では、「仕事が忙しく時間が取れない」「運動は苦手」という発言が目立ち、モチベーションの低さが懸念されました。
そこで、まずEさん自身の言葉で健康に対する思いを語ってもらいました。
その中で、
「娘の結婚式までは元気な姿でいたい」
という具体的な目標が明らかになりました。
この目標を軸に、3か月間で血糖コントロールの改善を目指す共通目標を設定。
運動処方箋では、週2回15分のウォーキングから開始しました。
仕事帰りに一駅分歩くという、実行しやすい方法を選択しています。
2週間後の診察では、
「意外と続いている」
という前向きな反応が得られました。
段階的に運動量を調整し、指定運動療法施設との連携も取り入れることで、3か月後にはHbA1cは7.8%まで改善しました。
6か月後には目標としていた7.0%を達成し、運動は生活の一部として定着しています。
このケースが示しているのは、内発的動機づけの形成と段階的支援、そして医療連携を組み合わせることで、継続支援は現実的なものになるという点です。
まとめ
運動処方箋を活かした継続支援において、モチベーション管理は医療スタッフの重要な役割の一つです。
外発的動機づけだけに頼らず、患者さん自身の価値観に基づく内発的動機づけを育てる。
段階的な目標設定と医療連携を通じて、運動を生活の中に位置づけていく。
その積み重ねが、運動処方箋を「紙の指示」から「行動を支える仕組み」へと変えていきます。
次回のセッションでは、ぜひ「なぜ運動したいと思われますか」という問いから始めてみてください。
その一言が、継続支援への第一歩となります。


