段階別アプローチで継続支援を強化
はじめに
「同じ運動処方箋での支援なのに、結果が分かれるのはなぜだろう」
医療連携トレーナーとして現場に立っていると、この疑問に行き着く場面は少なくありません。
運動内容が極端に違うわけではなく、指導姿勢に問題があるとも思えない。
それでも、継続できる人と途中で離脱してしまう人がいる。
この違いは、意志の強さや性格の問題ではありません。
多くの場合、患者さんが運動に向かう「準備状態の違い」によって説明できます。
その準備状態を整理する枠組みが、行動変容ステージ理論です。
この理論を理解すると、運動処方箋の活かし方そのものが変わってきます。
本記事では、医療連携トレーナーが行動変容ステージ理論をどのように捉え、運動処方箋を継続支援へとつなげるか、現場目線で整理します。
行動変容ステージ理論の基礎理解
行動変容ステージ理論は、人の行動変化が一度で完結するものではなく、段階的なプロセスを経て進むという考え方に基づいています。
運動習慣も同様です。
「正しい運動を伝えれば続く」という単純な構造ではありません。
理論上、行動変容は五つの段階で説明されます。
前熟考期:運動の必要性をほとんど感じていません
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熟考期:必要性は理解しているものの行動に移せない状態に
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準備期:近い将来に始めようという意図が芽生えます
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実行期:運動は始まりますが、まだ習慣としては不安定
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維持期:運動が生活の一部として定着
重要なのは、これらのステージを正確に分類することではありません。
行動変容ステージ理論の本質は、患者さんの評価ではなく、
今どの支援を優先すべきかを整理するための視点
にあるからです。
医療連携トレーナーにとって、この理論が有効なのは、運動処方箋を単なる運動内容の指示ではなく、継続支援のプロセスとして捉え直せる点にあります。
ステージを見極めるという専門的判断
現場では、運動処方箋の内容を確認した直後、すぐプログラム設計へ進みたくなることがあります。
しかし実際には、その前に行うべき重要な作業があります。
それが、患者さんが現在どのステージにいるかを見極めることです。
前熟考期では、「医師に言われたから来た」といった受動的な発言が多く見られます。
熟考期では、「やったほうがいいとは思うが続けられるか不安だ」という迷いが表れます
そして、準備期に入ると、「何から始めればよいか」という具体的な関心が現れます。
実行期の場合、「このまま続けられるだろうか」という継続への不安が前面に出ます。
維持期になると、「さらに効果を高めたい」という次の目標が語られるようになるのです。
これらのステージは固定されたものではありません。
生活環境や体調の変化によって、前後に揺れ動くことも珍しくありません。
だからこそトレーナーには、数値や言葉だけに頼らない臨床的な視点が求められます。
前熟考期・熟考期へのアプローチ
前熟考期や熟考期にある患者さんに対し、いきなり運動プログラムを提示しても、継続にはつながりにくい傾向があります。
この段階で重要なのは、運動を「やらせること」ではなく、運動に意味を持たせることです。
健康リスクを強調しすぎると、短期的な関心は得られても、行動変容は長続きしません。
それよりも、患者さん自身の生活や価値観と結びつけて、運動の意義を再定義することが大切になります。
「日常生活が少し楽になりますよ」
「趣味を続ける体力が保たれます」
「将来の生活の質を維持できます」
こうした文脈の中で運動が位置づけられたとき、患者さんの意識は静かに動き始めます。
この段階の支援目標は、運動習慣の確立ではありません。
「自分にもできそう」な感覚を持ってもらうことです。
準備期・実行期へのアプローチ
準備期に入った患者さんに対しては、運動処方箋を生活の中で実行可能な形へ落とし込む支援が中心となります。
漠然とした計画では、行動は続きません。
いつ、どこで、どの程度行うのかを具体化することで、心理的なハードルは大きく下がります。
実行期は、行動変容の中でも離脱が起こりやすい時期です。
身体的な変化がまだ実感しにくく、不安が生じやすいためです。
この段階では、運動量の多さよりも、「続いている事実」を言語化した共有が重要になります。
小さな変化であっても、継続の積み重ねが意味を持つことを伝える。
この関わりが、自己効力感を育てていきます。
また、体重や血圧、運動時の心拍数などのデータを活用し、変化を可視化することも有効です。
医療連携トレーナーの強みは、運動処方箋の意図を踏まえながら、こうした情報を継続支援の材料として活かせる点にあります。
維持期へのアプローチ
維持期に入った患者さんは、一見すると大きな問題がないように見えることも。
しかし実際には、マンネリ化や生活変化によって、中断のリスクを常に抱えています。
この段階では、これまでの取り組みを振り返り、長期的な変化を共有することが大きな意味を持つのです。
過去と現在を比較することで、運動を続けてきた価値が再確認されます。
そのうえで、新たな目標や役割を提示すると、習慣は再び活性化します。
実践事例:高血圧患者Fさんのケース
Fさんは高血圧に対する運動療法の処方箋を持参し、来所。
初回面談では、運動に対する不安と抵抗感が強く見られました。
そこで、運動内容の説明よりも先に、生活や関心事について話を伺うことから始めました。
その中で、
「孫と旅行に行きたいが(体力に)自信がない」
という思いが語られました。
この言葉を軸に、運動を旅行を楽しむための体力づくりとして位置づけました。
週1回、30分の軽い運動から開始し、無理のないペースで取り組みを継続しました。
次第に運動への抵抗感は薄れ、二か月後には運動処方箋に基づくプログラムへと移行しました。
血圧の変化を共有しながら支援を続けることで、6か月後には運動が生活の一部として定着しました。
この事例が示しているのは、ステージに応じた関わりを積み重ねることで、行動変容は無理なく進められる点です。
まとめ
行動変容ステージ理論を活用することで、医療連携トレーナーは患者さん一人ひとりの状態に応じた支援を行いやすくなります。
前熟考期・熟考期では意味づけと障壁整理を行い、準備期・実行期では行動の具体化と継続支援を重視します。
維持期では、マンネリ化や中断リスクへの備えが重要になります。
運動処方箋は、運動内容の指示書にとどまらず、継続支援の起点となるのです。
次回のセッションでは、「いまこの方はどのステージにいるのか」を一度立ち止まって考えてみてください。
その視点によって、支援の質は高まります。


