生活習慣改善の専門家へ:トレーナーが身につけるべき行動変容支援スキル

2025年09月29日 | 健康トピック

医療機関から紹介されたクライアントから、このような悩みを聞いたことはありませんか。

完璧な運動プログラムを作成しても、クライアントが行動を変えられなければ何の意味もありません。
私がこの現実に直面したのは、医療連携を始めて2年目のことでした。

糖尿病の50代男性クライアントが、3ヶ月間のプログラム中に実際に運動したのはわずか15回。
素晴らしい運動メニューも、実行されなければ効果はゼロでした。

この経験から私は行動科学を学び始め、現在では95%のクライアントが6ヶ月以上運動を継続しています。

運動指導の技術だけでなく、クライアントの行動変容を支援するスキルこそが、これからのトレーナーに最も必要な能力なのです。

行動変容支援の重要性

従来のトレーナーは運動技術の指導が中心でした。

これからは

という人間の心理と行動のメカニズムを理解する必要があります。

医療連携における行動変容支援の価値

昨年、私が担当した高血圧のクライアント30名のデータを分析したところ、興味深い結果が得られました。

継続できたクライアントと中断したクライアントの違いは運動能力ではありませんでした。
年齢、体力、疾患の重症度に大きな差はなかったのです。

行動変容ステージモデルの実践活用

人の行動変容には明確なステージがあり、各ステージに応じたアプローチが必要です。

前熟考期クライアントへのアプローチ

田中さん(仮名)は55歳の会社員で、医師から運動療法を勧められて来ました。

しかし初回面談で「正直、運動は嫌いなんです」と本音を語りました。

典型的な前熟考期の状態でした。

私は田中さんに運動の重要性を説くのではなく、まず現在の生活で困っていることを聞きました。

という悩みが出てきました。

そこで私は「運動」という言葉を使わず、「日常生活を楽にする動きの練習」という表現で提案しました。
階段を楽に上がるための脚力強化、疲労回復のためのストレッチング、集中力向上のための軽い有酸素運動という具合です。

6ヶ月後、田中さんは週4回の運動を継続し、

と笑顔で話すようになりました。

準備期から実行期への橋渡し

準備期のクライアントには具体的な行動計画の作成が重要です。
佐藤さん(仮名)は40代女性で、「来月から絶対に運動を始めます」と意気込んでいました。

しかし漠然とした決意では実行に移すのは困難です。

私は佐藤さんと一緒に詳細な行動計画を作成しました。

といった具体的な内容です。

さらに重要だったのは、実行を阻害する要因への対策でした。

という柔軟性のあるルールも設定しました。

動機づけ面接法の実践

クライアントの内発的動機を引き出すための面接法です。

効果的な質問の技術

従来のアプローチでは「運動は健康に良いので頑張りましょう」と説得することが多いものです。
しかし動機づけ面接では、クライアント自身に気づきを促す質問を重視します。

例えば、

といった開放的な質問です。

山田さん(仮名)は60代男性で、医師から運動を勧められていました。

私が

と質問すると、山田さんは

と答えました。

この答えから、山田さんの真の動機は『健康改善』ではなく「孫との時間を大切にしたい」のだと分かりました。

私は運動プログラムを

として位置づけ、キャッチボールに必要な体力要素を重点的に鍛える内容に調整しました。

抵抗を生まない関わり方

クライアントが「でも忙しくて時間がない」「運動は苦手で」と反論した時、つい「でも健康のためには必要ですよ」と言い返したくなります。

しかしこれは逆効果です。

動機づけ面接では、クライアントの気持ちをまず受け止めます。

と共感を示します。

その上で

と建設的な方向に導きます。

ライフスタイル改善のためのコーチング

習慣形成のメカニズム活用

習慣は「きっかけ→行動→報酬」のループで形成されます。

鈴木さん(仮名)は30代女性で、朝の運動習慣を身につけたいと希望していました。
私は鈴木さんと一緒に習慣化のプロセスを設計しました。

というシンプルな構造です。

最初は「たった5分?」と物足りなく感じていた鈴木さんでしたが、2週間後には自然に10分、1ヶ月後には20分と時間が延びていきました。

小さな成功体験の積み重ねが、より大きな行動変化につながったのです。

環境設計による行動支援

人間の行動は環境に大きく左右されます。物理的環境、社会的環境、時間的環境を戦略的に設計することで、行動変容を促進できます。

伊藤さん(仮名)は50代男性で、帰宅後の運動習慣を身につけたいと考えました。
しかし家に帰るとソファに座ってテレビを見てしまい、運動する気になれませんでした。

私は伊藤さんに環境の変更を提案しました。

こうした小さな変更により、運動しやすく、テレビを見にくい環境を作りました。

さらに社会的環境として、近所のウォーキング仲間を紹介し、週2回は一緒に歩く約束をしました。

一人では続かない運動も、仲間がいることで継続が可能になったのです。

挫折予防と再開支援

どんなに完璧な計画を立てても、人間である以上挫折は避けられません。
重要なのは挫折を前提とした予防策と、挫折後の復帰支援です。

リスク要因の事前特定

加藤さん(仮名)は40代男性で、過去に何度も運動を始めては続かないという経験を持っていました。

私は加藤さんと一緒に過去の挫折パターンを分析しました。

という共通パターンが見えてきました。

これらのリスク要因に対し、具体的な対策を準備しました。

忙しい時は10分間の簡単な運動に変更する、体調不良の時は完全に休んで回復後に再開する、結果が出ない時は運動以外の変化(疲労感の軽減、睡眠の質向上など)に注目するという具合です。

挫折後の自己批判を防ぐ

2ヶ月目に風邪で1週間運動を休んだ加藤さんは、「また続けられなかった」と自分を責めていました。

私は加藤さんに

と伝えました。

そして「今回の経験から何を学べるでしょうか?」と質問しました。

加藤さんは

と答え、前向きな気持ちで運動を再開しました。

個別性を重視したアプローチ

クライアント一人ひとりの性格、価値観、生活スタイルに合わせたアプローチが重要です。

パーソナリティタイプ別対応

完璧主義の傾向がある小林さん(仮名)は、「毎日1時間運動する」という高い目標を設定していました。
しかし現実的でない目標は挫折の原因となります。

私は小林さんに「完璧でなくても効果がある」ことを科学的データで説明し、「週3回30分でも十分な効果が期待できる」と現実的な目標に修正しました。

また、運動できない日があっても自分を責めず、「柔軟性も成功の要素」と捉えるよう支援しました。

一方、社交的な性格の井上さん(仮名)には、グループでの運動プログラムを提案しました。仲間との交流が運動継続の大きなモチベーションになったのです。

医療機関との協働による効果最大化

医師や医療スタッフとの連携により、行動変容支援の効果を最大化できます。

情報共有のポイント

私は医師への報告書で、クライアントの行動変容ステージ、効果的だったアプローチ方法、継続の阻害要因などを詳しく記載します。

例えば

といった具体的な情報です。
そうすると医師は患者さんとの面談で適切なサポートができますし、薬物治療の調整も適切に行えます。

チーム医療における役割

私たちトレーナーは、行動変容支援の専門家としてチーム医療に貢献できます。
看護師による生活指導、管理栄養士による食事指導と連携し、包括的な生活習慣改善をサポートします。

成功事例に学ぶ継続支援

昨年担当したクライアント50名の追跡調査では、行動変容支援を重視したアプローチにより、12ヶ月後の運動継続率が89%に達しました。

従来の指導法では50%程度だった継続率が大幅に改善したのです。
特に印象的だったのは、65歳の女性クライアントです。

開始時は「もう年だから無理」と消極的でしたが、段階的なアプローチと継続的な支援により、1年後には地域のマラソン大会に参加するまでになりました。

という言葉は、行動変容支援の価値を物語っています。

継続的な専門性向上

行動変容支援のスキルを高めるため、私は毎月心理学や行動科学の専門書を読み、年2回は関連学会に参加しています。

また、成功事例と失敗事例を詳細に分析し、より効果的なアプローチ法の開発に努めています。

生活習慣改善の専門家として

行動変容支援スキルを身につけることで、私たちトレーナーは単なる運動指導者から「生活習慣改善の専門家」へと進化できます。

クライアントの人生を根本から変える支援ができる専門職として、社会的意義の高い役割を果たすことができるのです。

そんな専門性の高いトレーナーこそが、これからの時代に求められています。

クライアントの「できない」を「できる」に変える。
その瞬間に立ち会える喜びを、ぜひあなたも体験してください。

Doctor’s Fitnessでは、医療機関と連携した運動習慣定着プログラムを提供しています。
患者さんの継続的な健康管理をお考えの医療スタッフの皆様、お気軽にご相談ください。

【監修】宮脇 大(みやわき ひろし)
Doctor’s Fitness代表医師/循環器内科医
元大阪大学医学部附属病院/循環器内科(重症心不全・心臓移植)スタッフ
大阪府スマートヘルスプロジェクトアドバイザー

本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人の状態に対する医学的アドバイスではありません。連携モデルの導入にあたっては、各医療機関の方針や地域の状況に合わせて調整してください。

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